ある青年のプロポーズ


 羽奈が蒼志に想いを告げ、蒼志がそれを迷いながらも受け入れてくれてから、ほぼ一週間が経った。恋人、などと言っても特に今までと変わったわけではなく、せいぜい手を握るくらいで殆ど手も出してこない蒼志に、羽奈は正直彼が同情で自分の想いを受け入れてくれたのではと心配になっていたが、蒼志はとても真剣に羽奈を想ってくれていた。
 その日、二人は屋上で昼食をとっていた。空は少し曇り気味で、灰色の中、かろうじて青いところが見えるだけだ。
 羽奈は何気なく、自分が本当は美術学校に進学したいと思っていたことを話した。
 羽奈だって、最初からああだったわけではない。勉強だって、運動だって、特別できたわけではないが、それなりに頑張っていた。
 だが、余分なお金など全くない孤児院では、羽奈の希望が叶えられることはなかったのだ。
 公立高校への進学か、高校へ行かずに働くか。あそこにいる限り、それ以外の進路は選べない。それを知ったとき、羽奈にとって学校も勉強も価値のないどころか、時間の無駄でしかなくなった。
 さりとて義務教育。孤児院に羽奈に教育を受けさせる義務があるのだから、羽奈が学校に行かなければ、孤児院の責任になってしまう。
 そういうわけにもいかないので、今の“学校で絵を描く”という状態が出来上がったわけだ。
 羽奈の話を聞いた蒼志は、真剣な瞳で羽奈を見つめた。
「いい機会だから、今言うよ。ずっと言おうと思っていたんだけど、もし、君がよければ、中学を卒業したら僕の養子になってくれないかな?」
「僕が先生の養子に・・・?」
「もちろん、嫌なら別にいいんだ。ただ、そうすれば一緒に暮らせるしね。それに、もっとしっかりとした立場で君を守れるから」
柔らかい声が耳に流れ込んでくると同時に、羽奈は蒼志に抱きついていた。
 「なる!! 僕、先生とずっと一緒にいたいから」
抱きついてくる羽奈の背中を、蒼志が優しく撫でる。
「無理はしなくていいんだよ。絵の学校のお金は、君が僕の養子になるならないに関わらず、僕が出そう。僕も君の絵が大好きだからね」
「無理なんかしてません!! 絵の学校は別に行けなくてもいいけど、先生とは一緒にいたいんです」
「本当にいいのかい? 言っておくけど、これから君が僕を嫌いになっても、養子という関係は切れないよ。僕は君に嫌われても、君に幸せになってもらいたいから親としてでも君を守りたいんだ。だから一度養子になったら、それを解消するつもりはないからね」
心配そうに念を押す蒼志に、羽奈は苦笑した。
「僕は先生のこと嫌いになったりしません!! 先生こそ、僕のこと嫌いになったって離れてあげませんから」
少し照れながらそう言う羽奈に蒼志は穏やかに微笑んだ。
「嬉しいなぁ。じゃあ、決まりだね。改めて、中学を卒業したら、僕の所へ来てくれますか?」
少し悪戯っぽく、まるでプロポーズでもするようにそういう蒼志。
「はい、喜んで!! こちらこそ、よろしくお願いします」
羽奈も丁寧にそう答え、二人は笑い合う。
 いつの間にか雲が流れて行き、二人を祝福するような綺麗な青い色が、空一面に広がっていた。




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