フレデリカの場合


 フレデリカは不貞な不良中年を見送ると、ヤンのデスクに歩み寄った。ヤンは未だ不思議そうな表情で頬を掌で撫でている。
「何だったんだ…一体?」
フレデリカは黙ってポケットから白いレースの縁取りのされたハンカチを取り出すと、その頬を丁寧に拭った。
「おや、何か悪戯でもされていたのかい?」
「えぇ…まぁ」
ヤンの色事に対する鈍感さは彼女にとっても魅力的ではあったが、こういう時ばかりはもう少し聡くなって欲しいと思う。フレデリカは曖昧な返事を返すと、気を取り直して持ってきた資料の説明に励んだ。
 「ありがとう、やっと書類が纏まったよ」
フレデリカの持ってきた資料でやっとデータの整理を終えたヤンが、椅子の背もたれに凭れて大きく一息つく。フレデリカはデスクにそっと紙コップに淹れた紅茶を置いた。
「やぁ、気が利くね」
ヤンが嬉しそうに紙コップを持ち上げる。
 「…あの、閣下」
フレデリカの些か固い声にヤンがコップを置いて顔を上げると、彼女が緊張した面持ちで彼を見下ろしていた。
「これを…」
彼女が差し出したのは綺麗にラッピングされた包みだった。
「私にかい? …ありがとう。気を遣わせてしまってすまないね」
ヤンが照れ臭そうに頭を掻きながら受け取る。フレデリカは表情を綻ばせた。
「いえ。気を遣ったのではなくて、閣下に貰って頂きたくて…その…今年は手作りしてみたのですけど…お口に合うかどうか…」
「そいつは楽しみだね。是非、家でゆっくり味合わせて貰うよ」
「あの、不味かったら捨ててくださっていいんです」
「まさか。口の方を合わせるさ」
自信なさげに眉を寄せて言い募るフレデリカ。ヤンはどう言っていいか戸惑いつつも、彼女を安心させようとぎこちなく笑った。フレデリカは彼の不器用な心遣いが嬉しくて、自然と表情が和らいだ。


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