1.浜辺のエンジェル


 誰が言い出したのか、ヤン艦隊では夏休み艦隊旅行の企画が持ち上がった。もちろん、軍隊に夏休みなどない。だが、帝国との微妙な休戦状態と、現時点において帝国軍の侵攻の可能性はほとんどないという司令官の言葉とで、この信じられない企画が通ってしまった。
 そこで一番頭を悩ませるのはかの要塞事務監殿である。だが、ぶちぶちと文句を言いながらも、予算を捻出し、企画を具体化させた手腕は流石と言える。
 行き先はとある小さな無人惑星だった。その惑星は大きな島が一つあるだけであとは海しかなかった。だが、地球に非常に近い気候を持っており、島には大きな森があり、動物や魚も生息している。それなのにどうして人間が住んでいないかというと、その星の場所があまりにも微妙だからだ。イゼルローン回廊の帝国よりの一端、つまり、ヤン達がイゼルローンを奪取するまでは帝国領だった。しかも、位置的にいつ帝国に侵攻されてもおかしくなく、誰も住みたがらないし、軍事拠点も立てられなかった。帝国領だった頃も似たような状況だったらしい。つまり、忘れられた惑星だった。

 そして、どういった偶然か同じ時期に帝国においても、同じような提案がなされていたのを、彼らが知る由もなかった。


 辿り着いた惑星は美しかった。辿り着く頃には航行に当たっていた者達以外、全員ちゃっかり水着に着替え済みである。広い海岸が、一気に同盟軍の兵士達で埋め尽くされる。
 「みんな元気で結構なことだね」
感心してその姿を眺めながら、司令官が顔を出す。シンプルなトランクス型の海パンと、頭には麦わら帽子、顔にはサングラス、さらに方にタオルまで引っ掛けて、妙にオッサン臭い。だが、それでもその魅力は揺るがなかった。
 東洋系独特の象牙色の滑らかな肌に、肉付きの薄い胸板、その頂点にはぷっくりと桜色に色づく小さな突起。その姿にやられて倒れる兵士が続出する中で、当の本人だけがそれを理解できずにやっぱり日差し対策は大事だなどとほざいている。
 「せーんぱい、一緒に泳ぎましょう!!」
最初に飛びついて来たのはアッテンボローだった。ヤンと同じようにトランクス型の海パンを身に付け、丸いサングラスをかけている。
「お前ねぇ…私が泳ぎが苦手なのを知っているくせに…」
ヤンはぼやきながらも後輩に手を引かれて浜辺まで連れて行かれる。
 「ヤン提督〜、お弁当と紅茶を用意してありますから、疲れたら戻ってきてくださいね」
途中でパラソルの下でフレデリカと一緒にピクニック道具を広げていたユリアンが、ヤンに浮き輪を手渡しにやってきた。
「そりゃぁ、いい。私はもう疲れたよ」
ヤンはここぞとばかりに、運動から逃げ出そうとする。ユリアンの唇がクスリと弧を描いたのをアッテンボローは見逃さなかった。
 「何言ってるんですか、先輩。まだ海に浸かってもいないじゃないですか」
「ここまで来るだけで充分疲れたよ。私はいいからお前は泳いで来たらどうだい?」
「先輩…」
アッテンボローがしょんぼりと下を向く。流石にヤンも罪悪感を覚えたらしく、じゃあ少しだけと歩き出そうとするが、その腰を誰かに引き寄せられた。
 「無理強いは感心しないな。それより提督、私とクルーザーでもどうですかな? ここはイルカもいるらしいですが…」
ヤンを逞しい胸元に抱き寄せながら、さながら女性でも口説くように誘うのが誰か言うまでもないだろう。
 シェーンコップはビキニタイプの海パンを身に付け、逞しい肉体を惜しげもなく晒していた。まさに男の魅力全回といったところだが、ヤンに効果がないのはいつものことである。
「う〜ん、クルーザーの上で潮風を浴びながらの昼寝も悪くないね」
「でしょう?」
「シェーンコップ中将はクルーザーの運転もできるんですね、僕も乗ってみたいなぁ」
うまくいきかけたシェーンコップの作戦に、ユリアンがちゃっかり牽制をかける。
「イルカですって。私もぜひ見てみたいですわ」
そこにフレデリカまでが加わった。誰も助けの来ない海の上でシェーンコップと二人きりなどという危険な状況に、ヤンを置くわけにはいかない。この際共闘と次々と面子が増えて、結局ヤン艦隊の幕僚がほとんど揃ってクルーザーに乗り込むことになった。
 つまり、ヤン、シェーンコップ、アッテンボロー、ユリアン、フレデリカ、キャゼルヌ一家、ポプラン、コーネフ、マシュンゴ、それにお目付役としてムライまで着いてくる有様である。



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