九、花盛り


 薔薇さんと過ごした夏は、僕にとって夢のような日々だった。
 想いが通い合ったと言っても、僕らの間に特別な変化はなかった。少し変わったことといえば、時々手を繋いだり、抱き締め合ったりするようになったことぐらいだろうか。それでも僕の心は充分に満たされていた。彼女と一緒にいると、まるで日溜まりいるような、温かで穏やかな時間が僕を包み込む。
 夏休みということもあり、僕らは毎日のように一緒に過ごした。大概薔薇さんの家で、お茶を頂いたりお話をしたり、並んで読書をしたりしていたけれど、時々出掛けることもあった。薔薇さんのお歳もあって、出掛けられる場所は限られたけれど、彼女と一緒ならどこに行っても楽しかった。近所の公園さえも、特別な場所に感じられた。
 僕は前よりも薔薇さんに色んなことを話すようになった。母のことも話した。彼女は黙ってそれを聞いて、僕を抱き締めてくれた。僕は彼女の胸の中で静かに涙を流した。
 彼女も僕に色んなことを話してくれた。亡くなった旦那さんのことや、他の家族のこと。彼女のご家族はほとんど亡くなったり音信不通になったりしているらしい。唯一今でも連絡がとれるのは、外国に行っているお孫さんだけらしい。お孫さんへの手紙に僕のことを書いてもいいかと問われて、僕は照れ臭く思いながらも頷いた。手紙と一緒に送るのだと写真まで撮らされてしまった。わざわざ写真屋さんに行って二人で並んで撮った写真は、ソラが突然入り込ん二人と一匹になった。写真の中ソラを膝に乗せ僕の手を握り、少し頬を染めて可愛らしく微笑んでいる薔薇さんは、僕の宝物になった。


 僕は幸せな日々を謳歌した。ずっとこんな日々が続くと思っていた。毎日のお茶会、そこにある彼女の笑顔、のんびりとミルクを飲むソラ、美味しいお茶とお茶菓子、薔薇の香り…。
 だが、夏はいつか終わる。花は季節が過ぎれば枯れてしまう。人も同じだった。そして幸せも。僕はそんなことすら気付かなかった。いや、気付こうとしなかったのかもしれない。ただ、目の前にある幸せを抱き締めて、いつか来るその時から目を逸らしていたのかもしれない。
 でも、どんなに目を逸らしても、時は待ってはくれなかった。



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