第一話 新任教師


 月曜日、朝会の列で頭の薄くなった校長の長い話を聞き流しながら、春日 羽奈(かすが うな)は欠伸を噛み殺した。
 授業中、HR、野外活動等所構わず絵筆とパレットを手に絵を描いていた彼だが、最近では絵の学校に入るために比較的真面目に学校生活を送っている。
 先週の金曜日も勉強の遅れを取り戻すために、恋人であり担任教師でもある、津谷 蒼志(つや そうし)の家で彼に勉強を教わっていた。孤児院にいて、普通の公立高校にしか進学できないはずの羽奈が、絵の学校に行くお金を出してくれると約束してくれたのも、彼だ。
 ふと顔を上げると教師達の列の中に、彼の姿を見つけた。いつも晴れ渡った青空を思わせるような、穏やかで清々しい雰囲気を持つ青年だが、羽奈の視線の先の蒼志は、どこか浮ついているように思えた。そういえば、金曜の夜も様子がおかしかった。
 怪訝そうに蒼志を見つめていた羽奈だったが、寿退職した英語の先生の代わりに新しく入ってきた先生の紹介になって、蒼志の視線が朝会台に移ったので、羽奈もそれを追って視線を移した。
 朝会台の上に立っていたのは、日本人離れした長身の男性で、歳は二十代後半から三十代前半といったところだろうか。
 日本人離れしているのは体格だけではなく、顔立ちも鼻の高く整った西洋人風の顔立ちだ。髪と瞳の色も金褐色だし、もしかしたら外国人かあるいはハーフなのかもしれない。
 「美輪 樹(みわ いつき)だ。学生時代は英国に留学していて日本の学校は初めてなので、不慣れな所があるかもしれないが、よろしく」
そう言って彼が白い歯を見せて微笑むと、女子達がきゃいきゃいと黄色い声を上げる。
 確かにいくら中年に近いとはいえ、それを大人の魅力と思えるぐらいに彼は格好いい。
 だが羽奈は心の中で、
『先生の方が格好いい』
などと贔屓丸出しなことを考えていた。
 美輪先生は自己紹介を終え朝会台を降りると、なぜか蒼志の隣に並び、親しげに声をかける。蒼志が苦笑して
「今は朝会中ですよ」
と小さく耳打ちした。美輪先生はそれに悪戯っぽい笑顔を返すと、黙って前を向く。
 そんな様子を見て、羽奈は何となく釈然としないものを感じてしまう。金曜からどことなく蒼志の様子がおかしいこともあって、気になって仕方がなかった。


 朝のHR。黒板の前に立った蒼志が、美輪先生を副担任として紹介するのを、羽奈は教壇の前の席でボンヤリと見つめていた。
 「朝会で紹介があったけど、新しくいらした美輪先生だよ。うちのクラスの副担任をしていただくことになったから」
蒼志の声が穏やかに教室中に流れる。普段はとても大人しいとは言えない生徒達だが、蒼志が話しているときは、いつも不思議と静かになった。
 蒼志の声は耳に心地よく、つい耳を傾けてしまうのだ。
 「英語科担当の美輪 樹だ。改めてよろしく。実は先週の金曜ぐらいまで英国にいたから、日本は久しぶりなんだ。最近の流行とかはさっぱりだから、君達に色々教えて欲しい。逆に英語を含め英国のことなら何でも聞いてくれて構わない」
少し古風な感じの話し方で、気さくな笑みを浮かべる彼に女子達はうっとりとした視線を向けていたが、羽奈はその隣でどこか落ち着かない様子の蒼志が、気になって仕方がなかった。



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