第二話 接触


 お昼休みになって羽奈はいつものように蒼志と屋上で昼食を摂っていた。羽奈は蒼志の作った弁当に口をつけつつ、彼の様子を窺う。
 「僕の顔に何かついているかい?」
自分の顔をじっと見つめる羽奈を蒼志は不思議そうに見つめ返した。
「先生、先週の金曜日から何か様子が変じゃありませんか?」
「そうかな?」
「何かそわそわしてるっていうか、浮ついてるっていうか、そんな感じがするんですけど、僕の気のせいですか?」
「ん〜、ちょっと体調が優れないから、きっとそのせいじゃないかな」
苦笑しながらそう言う蒼志に、羽奈は怪訝に思ったものの、一応頷いておく。
 ぎいぃぃい
不意に屋上の扉が甲高い叫び声と共に開かれた。そこから長身の人影が姿を現す。晴れた空の下、日の光を反射した金褐色の髪が風に揺れた。
 「蒼志、こんな所にいたのか。探したよ」
美輪先生がそう言って真っ直ぐ蒼志の方に歩いてくる。
「い・・・美輪先生、学校では名字で呼んでください」
蒼志の抗議を無視して、美輪先生は座っている二人を上から覗き込む。
 「君は確かうちのクラスの・・・」
先程から蒼志ばかり見ていた美輪先生が羽奈に視線を向ける。羽奈はそれに挑むような視線を返した。
「春日 羽奈です」
「そうか。こんな所で先生と食べていないで、君もクラスで友人と食べた方がいいのではないかね?」
「それは僕が決めることです」
美輪先生に羽奈は決然とそう答える。
 蒼志といる時は、嫌われることを恐れて控えめになってしまう羽奈だが、元々いくら誰に何を言われても授業中に絵を描き続けたという、頑固さの持ち主だ。教師が相手でも一歩も退かない。
 「それは君の我が儘だろう? 君はそれでいいとして、蒼志・・津谷先生には迷惑かもしれないじゃないか」
美輪先生の言葉に羽奈は口を噤んだ。確かにそうかもしれない。蒼志だって昼休みにやりたい仕事も授業の準備もあるだろう。それを自分のために無理して付き合ってくれているのではないか。元々そういう思いがあっただけに、羽奈は美輪先生に反論できなかった。
 「僕は別に迷惑だとは思っていないよ」
羽奈の傷付いたような表情を見た蒼志は、真っ直ぐ羽奈に視線を向けて、美輪先生の言葉を否定する。羽奈は黙ってそれに頷いた。
 「蒼志は優しいからそう言うがね」
「樹さんっ!!」
更に羽奈を煽るような言葉を口にする美輪先生に、蒼志は咎めるような声を出す。
 『樹さん』・・・? 美輪先生の言葉などより、蒼志が彼を名前で呼んだことの方が、羽奈の心に引っ掛かる。
 「おや、津谷先生、学校では名字ではなかったのかな?」
からかうように言われて、蒼志は口ごもる。羽奈にとっては口ごもる蒼志など初めてだった。
「まあいい。昼食を邪魔して悪かったね。蒼志、色々と話があるから今夜は空けておいてくれ」
美輪先生はそれだけ言うと、ひらひらと手を振って、屋上を後にした。



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