第四話 同志


 もやもやした気持ちのまま孤児院に帰った羽奈は、帰ってからもついぼーっとしてしまっていた。
 「どうしたの? そんな顔して」
実咲に声をかけられても全然反応できず、目の前でパンッと手を叩かれてようやく顔を上げる。
「あ、ごめん・・ちょっと考え事してたから・・」
「“ちょっと考え事”って表情じゃなかったわよ。まるでこの世の終わりって感じ」
心配そうに覗き込んでくる実咲の後ろでは、すこし不機嫌そうな顔の和也がやはり心配そうにしていた。もっとも、本人は表情に出していないつもりらしいが、実咲にも羽奈にもバレバレである。
 「ったく、男のくせにすぐにうじうじするんじゃねぇ。ほらっ、さっさと吐いてすっきりしちまえよ」
「ホント、あんたってデリカシーないわよね」
苛立たしげにそう言う和也に実咲がため息をついた。羽奈はその様子に笑いを漏らすが、その笑いすらどこか寂しげだった。
 何度聞いても何も答えない羽奈に、実咲は訝る。いつもの虐めとかなら、彼は誰に話さなくとも実咲と和也には素直に話してくれた。その羽奈が何も話してくれないとなると・・・。
「津谷先生のことなの?」
実咲の鋭い指摘に、羽奈がピクリと顔を強張らせた。
 実咲と和也は羽奈と蒼志が恋人同士という関係にあることを知っていた。  羽奈が蒼志に恋心を抱いたその日に、実咲が彼の様子に気づき、問いただしたのだ。
 恋愛などしたことのなかった羽奈が、蒼志への気持ちが恋だと気付いたのも、それが切っ掛けだった。
 実咲も和也も羽奈が同性の教師である蒼志に想いを寄せたことを驚きはしたものの、別段軽蔑するでもなく温かく応援してくれた。ただし、毎日嫌という程聞かされる惚気には多少辟易していたが。  やっと想いが実って羽奈は幸せそうだったし、実咲や和也にしても、蒼志であれば羽奈を幸せにしてくれると確信できたので、自分のことの様に喜んでいた。
 それがどうだろう? 羽奈は今この世の終わりのような顔で思い悩んでしまっている。二人の間に何があったのか問いたださずにはいられなかった。


 「何よそれ!? 羽奈も何で黙ってるのよ!? もっとしっかり問いつめればいいじゃない」
羽奈から一部始終を聞いて、実咲は憤慨した。恋人をよりにもよって、別の人間との浮気疑惑で不安にさせるなどと、言語道断である。
 羽奈は別に蒼志が浮気したとまでは思っていなかったが、実咲は既にそう考えていた。
 少なくとも美輪 樹とかいう新任教師が、蒼志にただならぬ想いを寄せていることだけは確かである。そして蒼志も彼を名前で呼んだ。それを昔の知り合いだけで済ますというのが、逆に怪しい。絶対に何か隠していると見るべきであろう。
 「気にするなよ。別に津谷先生が浮気したって決まったわけじゃないし、とりあえずお前を庇ってくれたんだろ?」
 一人燃え上がる実咲を横目に、和也が羽奈を宥めたが、実咲の前には風前の灯火だった。
 「先生達が帰るのは六時過ぎてからよね。まだ間に合うわ、今夜会うっていうんだから、後をつけて真相を確かめるわよ」
「おい、ちょっと待てっ・・。何考えてんだよ」
「和也は黙ってて!! いいわよね、羽奈っ」
実咲の言葉に、羽奈は和也が止めるのも聞かずに頷いてしまった。彼も蒼志と美輪先生の関係が気になって仕方がなかったのだ。
 「お前らなぁ、んな理由で外出届けがもらえるわけねぇだろ?」
孤児院では五時を過ぎてから外出するには届け出が必要だった。それも門限は七時である。それを過ぎるにはさらに特別な届けを出さないといけない。
 だが高校生である実咲と和也はともかく、まだ中学生な上頼りないと評価されている羽奈が、そう簡単に許しをもらえるわけがなかった。
 「そんなの、黙って行くに決まってるじゃない。無断外出や門限破りぐらいできなくちゃ、孤児院生はつとまらないわよ」
平然と言い放つ実咲に、和也は呆れて物も言えなかった。
 周りの大人達には、実咲はしっかり者の優等生と認識されているが、絶対に間違いである。すこしやんちゃと思われている和也などより、彼女の方が余程質が悪かった。我が道を行く羽奈と合わせてとんでもないコンビだと思う。
 それでも、結局この二人に付き合ってしまう自分に、和也は自嘲の笑みを漏らすのだった。



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