第五話 手


 仕事を終え、蒼志と樹は二人揃って学校を後にした。
 「蒼志、車は?」
「免許も持ってまいせんよ」
「だろうと思ったよ。私の車に・・と言いたいところだが、私も今日は電車で来たのでね。二人でゆっくり話しながら歩こうか」
樹の言葉にそっと頷くと、彼の手が腰に回された。蒼志は腰を引くが、彼は気にせずさらに抱き寄せてくる。蒼志は諦めてその手に体を委ねた。
 未だに自分は彼の手を振り払うことができないのだと思い知らされる。
 「寒くないか?」
「大丈夫です」
樹に問われて、緩やかに首を横に振った蒼志だが、コート一枚羽織っただけで、マフラーも手袋もしていない蒼志はこの時期だと少し寒そうだ。
 実は両方とも少し前に羽奈にあげてしまった。皮肉にもそれは樹が蒼志を気遣ったのと同じ理由だった。
 「無理をしてはいけないよ。ほら、手がこんなに冷たい」
右手の手袋を外した樹が、蒼志の左手を握り込んで自らのコートのポケットに一緒に入れてしまう。ホカホカと温かい樹の手を、蒼志はそっと握り返した。
 樹は外した右手の手袋を蒼志の右手にはめる。彼の手に逆らえずにされるがままになっていた蒼志だが、流石にこれには黙っていられなかった。
 手袋を片方ずつ分け合って、手袋をしていない方の手は繋いだまま同じコートのポケットの中。
 「樹さん、これじゃあまるで・・・」
「恋人同士みたいだろう?」
そう言って口元を緩める樹に、蒼志はため息をついた。
「少しは周囲の目というのも考えてください。男同士でこういうことをするのは、あまりよく見られませんよ。・・・男女でも恥ずかしいと思いますが」
「おや、君は周囲の目など気にするのか?」
蒼志の指摘に、樹は意外とでも言うように目を見開いた。
 確かに蒼志はそういうことに偏見は持っていなかったし、別に人目など気にしないが、職業柄多少は自重しなければならない。だが、樹にはそれすら気にならないらしかった。
 「もう、いいです。好きにしてください。仕事、クビになったら責任取ってくださいね」
「ああ、責任もって君を一生面倒見よう」
蒼志はいい加減にしてくれとでも言いたげな目を樹に向けたが、それでも繋がれた手は握り返したまま、手袋も突き返そうとはしなかった。
 彼の手を振り払うことができなくて、彼の温かさが愛しくて。あの時から、自分が何一つ成長していないのだと、改めて思い知らされた。
 歳を重ねて落ち着いたし、思慮深くもなったと思っていたが、彼の前では全然だ。ただ少し意地を張っているだけで、まったく変わっていない。
 「とりあえず夕食にしようか。いい店を見つけたんだ。付き合ってくれるかい?」
「はい」
 蒼志と樹は寄り添ったまま、夜の道を歩き出した。



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