第七話 信頼


 羽奈達が見ている前で、蒼志は美輪先生と連れだって上等そうなフランス料理店の前まで来たが、何を思ったか店には入らず、そのまま繁華街の高級洋服店に入っていった。
 三人はショーウインドウからそっと店の中を覗く。
 蒼志は美輪先生に見立てられたスーツを着て、いつもよりさらに魅力的になっていた。いつも蒼志が学校行事等で着ているスーツよりも、ずっと蒼志に似合っていて、彼の綺麗な顔を引き立てる。穏和な雰囲気が引き締められて、少し大人っぽい感じになっているのが格好いい。
 蒼志の姿に見とれて頬を朱に染めていた羽奈だったが、蒼志が再び樹と手を繋ぎ店を出るのを見て、表情を引き締めた。
 「今の見た!? 一万円札が二十枚ぐらいあったわよ? どう考えても貢いでるって感じよね」
「でも、あの津谷がさ、貢がれて惚れるってのもありえねぇだろ? 実際、お金払う時も遠慮してたみたいだったしな。結局押し切られてたけど」
「あ〜あ。いいなぁ。私もお金持ちに貢がれてみたい」
実咲と和也が好き勝手言うのを聞きながら、羽奈は表情を曇らせていた。


 買ったスーツを着たまま高級洋服店を出た二人は、そのまま先ほどのフランス料理店に入っていった。どうやら先程は、あのままの服装ではこういう上等そうな店には入れないということで、引き返したらしかった。
 流石に子供三人でこんな高級そうな料理店の中まで追っていくことはできない。三人は仕方なしに店の入り口が見えるところに座り、二人が出てくるのを待つことにした。
 「素敵よね、ああいう人。私もあんな人にエスコートされてみたいな。こう、こっちがおねだりとかしなくても、自然に欲しい物とか買ってくれそうよね。遠慮したりすると、耳元で『夜に返して貰うから』とか言ったりして・・・」
実咲が頬に手を当てて、うっとりと妄想を繰り広げていた。本来の目的を忘れたわけでもあるまいが、孤児院で物品に不自由しつつ暮らしてきた実咲にとって、美輪先生のようなハンサムで金持ちな紳士は魅力的だ。
「お前なぁ・・・」
和也は呆れて肩を竦めていたが、羽奈から見ても美輪先生は男性として魅力的だった。もっとも、羽奈はもちろん蒼志の方がずっと素敵だと思っているが。
 だが、蒼志はどうだろう? 彼にとって美輪先生より自分の方が魅力的に映ることなんて、ありうるのだろうか? いや、そんなことはまずありえなかった。
 羽奈は自分で考えて泣きそうになる。彼の目から見ても、自分と美輪先生ではどちらが蒼志に相応しいのかは火を見るより明らかだった。
 ぺちんっ
思考の海に沈んでいた羽奈の頬を、突然実咲が軽く叩いた。
「自信を持ちなさいよ。そりゃ、美輪って人は魅力的だとは思うわ。でも、津谷先生は貴方のことを好きって、愛してるって言ったんでしょ? だったら自信を持ちなさい。それとも貴方の恋人は、遊びでそんなことを言うような人なの?」
羽奈は首を横に振る。間違っても遊びでそんなことを口にするような人じゃなかった。
 羽奈の告白に返事を返す時も、余程悩んだらしく、次の日返事を返してくれた時には、目の下に隈ができていた。
 信じよう。単純にそう思った。あの時の彼の言葉が耳に蘇る。
 『僕も君が愛しくて仕方がないんだ。君をつらい道に引き込むことになるってわかっているのに、自分の気持ちを抑えられない。こんな僕でよかったら、一緒にいてくれるかい?』
温かい笑顔と共にそう言って手を差し出してきた蒼志。羽奈は目に涙を溜めながらも迷わずその手をとった。
 どうして些細なことで疑ってしまったんだろう?


 フランス料理店から出てきた二人が、行きと同じように寄り添って手を繋いでいるのを見て、胸が痛んだがそれでも信じていられた。
 彼が美輪先生と別れたら、真っ先に彼の胸に飛び込んで、きっちりと話をしよう。自分が感じたことも、ずっと追いかけて見ていたことも。そして、ちゃんと聞くんだ、美輪先生との関係を。
 もし、蒼志が美輪先生を愛していたらどうしようか。そんな一抹の不安がどうしても払拭できなかったが、それでも羽奈は蒼志を信じていた。
 そう、あの瞬間まで。



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