最終話 宣戦布告


 昼休み、羽奈と蒼志はいつものように屋上で昼食を共にしていた。
 他愛ないことを話ながら、蒼志の作ったお弁当を一緒に食べる。それは、二人にとって幸せで温かい時間だ。
 「あ、このお魚美味しいです」
「ああ、公魚の唐揚だよ。気に入ったのかい?」
蒼志に問われて羽奈が小魚の唐揚げを銜えたまま、嬉しそうな顔で頷く。
 蒼志は自分の分の公魚を箸で摘むと、羽奈のお弁当箱にそっと置いた。
「・・いいんですか?」
「君が喜んでくれるなら、このぐらい全然安いものだよ。気に入ったのなら、また作るよ」
「ありがとうございます」
羽奈が嬉しそうに頬を桜色に染めて、公魚を口に入れる。元々美味しいのだが、蒼志がくれたということが、余計にそれを増幅させていた。
 「仲が良くて、結構なことだね」
からかうような声と共に、もう一人屋上に入ってきた人物がいた。ゆっくりと羽奈達の方に歩み寄ってくる。
「美輪先生・・」
「他人行儀に呼ばないでくれ、蒼志。それより、私も君の手作りの昼食が欲しい。作ってきてくれるか?」
樹の言葉に、羽奈が明らかに眉根を寄せた。
 「樹さん、僕は・・」
「わかってるよ、蒼志。君はこの子を愛しているんだろう? もう聞いたよ」
樹のあからさまな物言いに、羽奈と蒼志が揃って顔を赤くする。それを見やって樹は口の端を上げた。
 「だけど、私は一言も君を諦めるとも、あの時の言葉を取り消すとも言っていない。言っただろう? 『別の恋人と幸せになっていたとしても、遠慮なく奪わせてもらう。覚悟しておいてくれ』と」
昔蒼志に言った言葉を、そのまま樹が再現して見せる。蒼志は何と言っていいかわからず、樹に複雑な視線を向けた。
 「わかりました。受けて立ちます。先生・・蒼志さんは、僕の恋人です。奪わせたりしませんから」
羽奈が唐揚げを飲み込んでから、立ち上がってきっぱりとそう言い放った。蒼志は自分を選んでくれたんだ、いつまでも不安になってうじうじしていても仕方がない。大事なモノは自分の手で守るべきだ。そういう想いが彼を強くしていた。
 蒼志はそれに目を丸くしたが、苦笑して自分も彼に習って立ち上がった。
「樹さん、僕も受けて立ちますよ。いつまでも貴方に甘えたりしないと、そう決めたんです」
宣戦布告を受けた樹は、大らかに笑う。
「わかった。だが、君が相手でも容赦はしないよ」
その言葉に、二人は揃って頷いた。
 「さしあたって、蒼志、君は恋人相手でないと弁当を作らないなんていう、心の狭い人間じゃないだろう?」
「当たり前です」
羽奈がきっぱりと請け合う。蒼志が心の狭い人間だなんて、あるはずがなかった。
「わかりました。樹さんの分も作ってきますよ。ただし、昼食の時間は邪魔しないでください。僕と羽奈の大切な時間なんです」
苦笑しながら、少し照れくさそうにそう言った蒼志に樹はまるで親が子を見るような、視線を向けた。
 「仕方がないね。邪魔は別のところですることにするよ」
そう言って手を振って去っていく樹を見送くる蒼志と羽奈の顔に、不安の影はまったく見えない。
 屋上の扉が音を立てて閉じた後、恋人達は青い空の下、幸せそうな笑顔を向け合い、そっと唇を重ねたのだった。

 FIN.


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