| 二、猫に誘われ
その日を境に、それまでは興味の対象でないだけであった恋愛やそれに伴う行為が、汚らわしく思えて仕方がなくなった。
僕は次第に女性に近付くことさえ避けるようになり、学校ではクールだドライだ冷めているだと色々言われたが、実際はそんなことではなく、ただ単に自らが犯した汚れた罪に怯えているだけのことだった。
あの時以来、母とは交わりこそ交わしていなかったが、変わらず続けることを強制される父の代わりという役目は、僕の心をまるで欠けていく月のように確実に蝕んでいった。しかし、月は欠けても元に戻るが、僕の心は月のように満ちる宛もなく、ただ蝕まれ続けるだけだった。
それは夏休みに入る少し前のことだった。
期末テストが終わり、部活もなく午前中に帰路についた僕は、家に帰る途次僕は母のいる家に帰りづらくて適当に公園のベンチでぼーっとしていた。
既に木の上では蝉の鳴き声が響き始めていて、頭が軋むような音が僕の苛立ちを煽る。去年までなら、この音は夏の到来を示し、むしろ僕の心を軽く躍らせたぐらいだったのに・・。
短い命の叫びに対し薄情にも眉を寄せ、ベンチにもたれ掛かっていると、その中に不意に小さなか弱い、それでいて必死に叫ぶような響きを持った声が混じっていることに気付いた。
耳を澄ましジリジリと焼け付くような音の中からその小さな声を聞き分け、その方向に視線を向ける。そこには高い木の枝に捕まり、何とかそこから降りようと懸命に短い前足を伸ばす小さな猫の姿があった。
前を歩く小さな三毛猫の後を僕はゆったりとした歩調で追っていく。忙しなく動く小さな四肢の動きに合わせ、猫の首に結ばれた可愛らしい鈴の音がリズム良く響くのがなかなかに涼しげだ。
歩幅の違いか猫と違って僕の方は普段よりずっとゆっくりと、時には立ち止まりながら動く必要があったが、慣れない木登りの後で疲れを覚えていた僕にはそのぐらいの方が丁度良かった。
子猫はやがて大きく古風な洋館の門の前でぴたりと足を止めた。その洋館は敷地が赤煉瓦の塀で囲まれており、その塀には蔓草が絡みついている。
子猫は立ち止まったまま一度僕を振り返った。その時初めて、僕はこの子猫の瞳が僕の頭上に広がる空を映したような綺麗な蒼だということに気が付いた。
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