第一話 冷也 〜2〜


 十月に入り、夜になると肌寒さを感じるようになってきた。
 氷月 冷也は薄手のコートのポケットに手を突っ込み、秋風に眉を顰めながら自宅への閑静な道を早足で歩いていた。喫茶店のアルバイトの帰りである。
 今年十九歳になる彼には両親と一人の姉がいるが、父はそこそこ大きな貿易会社を経営している社長で、母と一緒に海外に住んでいる。姉の方も父の会社の傘下の子会社を任されているため、同じく海外だ。現役大学生である彼だけが、日本に残っている。
 そのため彼は広い家に一人暮らしをしているが、別段お金に困っているわけではない。親からの仕送りはとても使い切れないぐらいの額だ。
 それでも彼がアルバイトなどするのは、一重にあまり親のお金に頼りたくないためである。
 生活費、学費等はともかく、参考書や好きな物を買うお金ぐらいは自分で稼ぎたい。
 そんな彼を数少ない友人達は物好きだと笑うが、地方から出てきて仕送りさえもらえずに苦労している友人もいるというのに、自分は全て親の金といのは少し自己嫌悪を覚える。それに冗談とはわかっていても、
「いいよな。お金持ちのお坊ちゃんってさ」
などと言われていい気はしない。
 もう一つの理由は暇潰しである。特に趣味といえるものもなく(強いて言えば料理だが、特に食べさせる相手もいない)、友人達のように合同コンパやナンパ、デートなどをする気にもならないものだから、どうしても時間が余ってしまうのだ。
 最初はハンバーガーショップで働いていたのだが、生まれつき表情の硬く、笑顔など何年前にしただろうという冷也に、スマイル0円など到底無理な話で、辞めさせれらてしまった。それで今は落ち着いた感じの喫茶店で働いている。
 そのバイトからの帰路、冷也が自宅の近くまで来ると、家の前に人が倒れていた。いや、人というのは多少語弊があるかもしれない。とりあえず人型ではあったが、それは明らかに人間とは異なる姿形をしていた。
 歳は十二、三といったところか。白い肌にふっくらとした唇、頬は桜色で閉じられた大きな瞳は長い睫毛に縁取られている。愛らしく、上品そうな顔立ちだ。深みのある藍色の長い髪は艶やかで、触り心地がよさそうだ。
 青い髪は存在しないとどこかで聞いたことがあるが、それが嘘だったのか、それともこの子が特殊なのか。どうも後者の方が正しそうだ。
 耳の直ぐ傍に生えている二股に別れた淡い銀色の角がそれを物語っている。ちょうど中国の竜のような感じだ。
 服は着物に似ているがどこかの民族衣装のようなもので、この季節には少し薄すぎる。
 どう見ても、病院や警察等に知らせると、どこぞの妖しい研究所に連れて行かれそうな風貌だし、だからといって放っておくことも出来ず、考えた末とりあえず家に連れ帰り、ベットに寝かせておいたのだ。



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