第一話 冷也 〜5〜


 「じゃあ、その鬼族とかいうのが、お前を追ってぞろぞろこっちの世界に来るんじゃないのか?」
そんなことになったら大騒ぎである。
 冷也は水鈴の話を嘘だとは思わなかった。どう見ても水鈴が嘘などつくように見えないし、彼に人間にあるはずのない角や藍色の髪があるのは、認めざるを得ない事実だ。
 「それは大丈夫だと思うのだが・・」
冷也の問いに、水鈴は少し自信なさげながらもそう答えた。
 天界では竜族の王と王妃が襲われたことで、戦争が再び激化しているはずだ。そんな中で、水鈴ごときにそうそう戦力を裂いていては、封印を解いたと思ったら国が戦に負けて滅んでいたなどということになりかねない。従って、そうレベルの高い者が来ることはないはずだ。
 また、封印の効果で、攻撃的な術は人間界では威力が抑えられてしまう。少なくとも街が崩壊とかそういう騒ぎになることはないだろう。
 「だが、追っ手が来る可能性は高い。だから私はすぐにここを離れよう。世話になった。事が落ち着けば必ずこの恩は返そう」
律儀にそう言って立ち上がろうとする水鈴の肩を、冷也は思わず押しとどめていた。
 「行く当てはあるのか?」
「そんなものはないが・・」
水鈴が人間界に来るのは、これが初めてだ。右も左もわからない世界で行く当てなどあるわけがない。
「なら、ここに居ればいい」
冷也は彼にしては珍しく、熱のこもった強い口調でそう言った。なぜ進んで厄介事に関わるようなことを言っているのか自分でもわからなかったが、とにかく意志の強い濃紺の瞳で彼を見つめてくる子供を、見捨てることなどできるわけがなかった。
 「そんなことをすれば、そなたを巻き込んでしまう」
「別に構わない。子供が変な気を使うな」
冷也は少し怒ったような声音でそう言うと、水鈴の頭をそっと撫でてやった。
 濃紺の瞳から光る雫がぽろぽろと溢れ出てくる。冷也がそのまま抱きしめると、糸が切れたように泣き出した。それでも必死で嗚咽を抑える様が痛々しい。
 例えしっかりしているとはいっても、彼はまだ子供だった。
 両親の安否もわからぬまま、独りで知らない世界に放り出されて、不安でない筈がない。
 本当は寂しかったし、ずっと泣きたかった。それを今まで何とか抑えてきたのだ。自分がしっかりしないと、と自らの心に言い聞かせながら。
 だが、人の温もりに触れて安心したら、涙が止まらなくなってしまった。冷也の胸に顔を押し付け、何とか声を抑えながら静かに涙を流す。
 そんな水鈴を、冷也はずっと強く抱きしめていた。



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