第一話 冷也 〜6〜


 「とりあえず風呂に入って来い」
ひとしきり泣いて落ち着いた水鈴を、冷也は脱衣所に連れて行く。
 もともと地面に落ちていたせいで体が多少汚れているし、体を温める必要もある。
 そう思って風呂に入れようとしたのはいいのだが、水鈴は水道やシャワーの使い方さえ知らなかった。
 仕方がないので一緒に入ることにして自らも服を脱ぎ始めた冷也だが、同じように服を脱いでいく水鈴を目にした途端、顔を真っ赤にして脱衣所を飛び出してしまった。
 「お前、女だったのか!?」
確かに水鈴は髪も長いし、顔立ちだってそこらの女の子よりずっと可愛らしいが、話し方や王太子だということから、てっきり男だと思っていたのだ。
「悪いっ」
冷也は焦って彼に詫びる。まだ発育途中とはいえ、女の子である。知らなかったとはいえ裸を見てしまったのはまずかった。
 「私は女性ではないぞ」
だが、水鈴は平然と裸のまま脱衣所から出てきて冷也の前に立つ。白い肌が目に入り、冷也は慌てて横を向いた。
「で、でも・・・下が・・」
冷也が言いにくそうに口ごもる。
 冷也が見た水鈴の裸体は、確かに胸こそ膨らんでいなかったが、男の体に必要なアレがなかった。
「ああ。男でもないからな」
怪訝そうな顔をする冷也に水鈴は自分の性別について説明してくれた。
 天界の者は、基本的に成人したときに自らの意思で性別を選ぶ。従ってそれまでは性別がないのだ。つまり男でも女でもない。
 「ちなみに私は男になるつもりだ。王にならなければならないからな」
水鈴がだから気にすることはないと気軽に言うが、それでも冷也は水鈴の裸体を直視できなかった。
 女性の持つ色香とは違うが、ほっそりとした白い肢体は魅惑的でつい変な気を起こしてしまいそうになる。これでは例え水鈴が完全な男だったとしても、平気ではいられなかっただろう。
 だが、水鈴一人ではお湯の出し方さえわからない。いつまでも真っ赤になって視線を逸らせていても仕方がないので、冷也は出来るだけ水鈴の体が視界に入らないようにして、水鈴の方を向いた。
「お前は、俺と一緒に風呂に入って、嫌じゃないのか?」
「別に構わないぞ。何か不都合でもあるのか?」
真剣に悩んでいた冷也とは反対に、水鈴はさらりとそう答える。彼にとってはそれほど気になることでもないのだろう。
 結局、冷也は水鈴は子供だと何度も自分に言い聞かせながら、一緒に浴室へ入っていった。
 水鈴にとって、術も使わずに蛇口を捻っただけでお湯や水が出るのは、余程珍しいらしく延々と蛇口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
 やっと満足した水鈴が体を洗い始め冷也が背中を洗ってやると、水鈴はどこか切なげな溜息をつく。
「幼い頃父上と入浴していた時みたいだ。あの頃は入浴するのが楽しくて仕方がなかった。いつまでもお湯で遊んでいて逆上せると、父上が抱いて運んでくれたのを覚えている」
 冷也はそんな水鈴の背中を流してやると一緒に湯船に浸かり、彼の頭にそっと手を置く。
「お前がここにいる間は、俺がお前の父親代わりだ」
その言葉を聞いた水鈴が、顔を上げて嬉しそうな笑顔を見せる。その笑顔に、冷也は心が温かくなるのを感じていた。



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