第二話 学校 〜3〜


 「探したぞ、連斗」
水鈴はそう言いながら屋上に続く扉を開き、煙草を手に屋上の床に胡座を掻いている連斗に歩み寄る。
「よお、水鈴。今授業中じゃねぇの?」
「それはこちらの台詞だ。また煙草など吸って。体に悪いと、この前保健のビデオで見たであろう?」
「俺寝てたから知らねぇ」
「では聞くがよい」
そう言って、水鈴は厳かな口調で煙草の危険性について説明を始める。
 「よいか、肺が真っ黒になるのだぞ。それに体力も格段に落ちる。大体・・・・」
耳タコとばかりに相変わらず煙草の煙を噴かしながら聞き流す連斗に、水鈴は厳しい表情で煙草を取り上げ火を足で踏み消す。
「私は、別にそなたがピアスをつけようが学ランの前を開けていようが、文句を言うつもりはない。だが、そなたが健康を損なうのは嫌なんだ」
正面に正座して見上げてくる水鈴の瞳が微かに潤んでいるのを見て、連斗がバツが悪そうに癖っ毛を引っ掻き回す。
 「しょーがねーだろ。口寂しいんだから。代わりにお前が慰めてくれるってんなら考えるけどな」
連斗はそう言って水鈴を押し倒した。水鈴がきょとんとした顔で見上げてくる。
 ちょっとした悪戯心だった。別に水鈴をどうこうしたいというわけではなかったし、彼の自分を気遣う気持ちが嬉しくもあった。ちょっとからかってやろうと思っただけである。
 だが、実際に組み敷いてみると、何となく妙な気分になってきた。
 自分と同じ性別で同じ年齢だとはとても信じられない、小柄で華奢な体。肌は透き通ったような白さで、日の光を浴びて微かに輝いている。
 屋上の床に散った藍色の髪や、連斗を見上げる長い睫毛に縁取られた大きな蒼い瞳を見ていると、胸が高鳴る。
 桜色の唇に自分のそれを押し当てようとしたその時、屋上の扉が長く酷使されたことへの抗議のような金属的な音を立てた。
 連斗は急いで身を起こし、水鈴の方ものんびりとそれに倣う。
 「こんな所で何をしているんだい? 今は授業中だろう?」
そう言って屋上に入ってきたのは、穏やかな雰囲気の青年だった。
 津谷蒼志。まだ若いが歴とした教師である。三年の担任だが、水鈴達のクラスの国語も教えている。
 水鈴と連斗は慌てて先程踏み消した煙草を隠す。そんな様子に津谷先生は苦笑した。
「健康に悪いから、あまり吸わない方がいいと思うよ。もっとも、僕が言わなくても氷月君が言ってくれてると思うけどね」
津谷先生はそう言って穏やかに笑うと、何かを思い出したようにぽんと手を打った。
 「そういえば、二人ともこの前の漢字の小テストはすごくよかったよ。氷月君に関しては満点だったし、萩野君も白紙以外の答案を初めて見た」
嫌みでもなく事実そのままを語り、良くなった部分を褒める態度には好感が持てる。実際水鈴も彼を良く思っていたし、連斗の方も彼に対してはあまり反抗する気がおきなかった。
 「さあ、二人とも教室に戻ろうか。そろそろ五時間目は終わっちゃうけど、次の時間はちゃんと授業に出るんだよ」
そう言って促す津谷先生に素直に従い、二人は屋上を後にした。



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