第三話 泉 〜2〜


 予想していた衝撃は一向に感じられず、ふわりと体が浮くような感覚に水鈴はぎゅっと閉じていた瞳を開いた。
 顔を相手の広い胸に押し付けるような形になっていたため、相手の顔は見えなかったが水鈴は誰かの腕に抱きかかえられている。
 「お怪我はありませんか?」
そう言って地面に降ろされ、水鈴は相手の顔を見上げる。そこには紫の瞳を柔和に細めた、端整な顔があった。
 「か、か、神崎先生!?」
「かか神崎ではなくて、神崎です」
驚いて目を見開き開いた口が塞がらない水鈴に、神崎先生がにこやかにそう訂正する。
 「何故そなたがこのような所にいるのだ!? 危険だ、すぐに逃げてくれ」
わけがわからぬが、とりあえず巻き込んでは大変だと必死にそう訴える水鈴の声は、やはり爽やかな笑顔に流されてしまう。
「大丈夫ですよ。こんな雑魚、僕の相手にはなりませんから」
 そんなことを暢気に話している間、鬼族だって大人しく待っていてくれるわけがない。無視されたことへの憤りとともに、今度は光の矢ではなく机と同じぐらいの大きさの光球が二人に向かって放たれた。
 慌てて防壁を造ろうとする水鈴を制して、神崎先生がまるで蠅に対するような動作で、光球を片手で払う。光球は一瞬大きく輝いたかと思うと、そのままバラバラに砕け散り、消え去った。
「なっ・・・」
驚く鬼族に、神崎先生が酷薄な笑みを向ける。
「お返しをしなくてはいけませんね」
彼の口から、軽い口調で術が紡がれる。瞬間、鬼族の体が勢いよく後方に吹き飛んだ。
 「ぐあぁっ・・」
鬼族の体が机を押し倒し、その衝撃に呻き声を上げる。
「おやおや、この程度でお仕舞いですか?」
神崎先生は酷薄な笑みはそのままに、ゆったりと倒れている鬼族に歩み寄る。そしてその耳元に口を寄せた。
「今回は特別に見逃してあげましょう。彼にあまり残酷なものは見せたくないですからね。でも・・次に彼の髪の先にでも触れてご覧なさい、生まれてきたことを後悔させて差し上げますよ」
そう囁かれ、鬼族は顔を蒼白にして、首振り人形のように何度も頭を上下に振ると、そのままそそくさと消え去った。
 「無事でよかったです。びっくりしましたよ、津谷先生から君が僕に呼び出されて、多目的室Vに向かったと聞いたときは。僕は君を呼びだした覚えなどありませんでしたからね。本当に間に合ってよかったです」
鬼族が消え去るのを見送った、神崎先生が水鈴を振り返る。その顔には先程の酷薄な笑みはなく、温かな瞳が水鈴を見つめていた。
「あ、ああ。助けてくれてありがとう」
「いいえ。このぐらい別にお礼を言われる程のことでもありませんよ」
「ところで、そなたは一体何者なんだ?」
水鈴の問いに神崎先生は意味ありげな笑みを浮かべただけで何も答えなかった。
 「さて、いきなりですがこれから僕の家にいらっしゃいませんか?」
答えの代わりに告げられた突然の招待に、水鈴は目を丸くする。
「貴方の質問にもそこで答えましょう」
そう言われて、少なからず心が揺れた水鈴だったが、首を横に振った。
「すまぬがあまり遅くなっては冷也に心配をかける。またの機会にしていただけぬか?」
「大丈夫ですよ。お家の方には担任の僕が家でお勉強の指導をすると連絡しておきますから。ついでに夕食もご馳走しましょう」
「え、いや、だからっ・・・;」
神崎先生は水鈴の言葉など聞きもせずに、彼の手を取り強引に引っ張っていく。水鈴は一応抵抗してはみたものの、無駄だと判断してずるずると引きずられていった。



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