第四話 焼き餅 〜1〜


 次の日、水鈴は泉と共に登校した。
 幸いにも教科書は学校のロッカーに置いてあったし、服は泉が夜の内に洗濯しておいてくれたので何の不自由もない。
 教師である泉に合わせて登校したため、いつもより大分早く学校に入ることになり、水鈴は静かな空気を存分に味わった。
「賑やかなのも嫌いではないが、朝早い学校の静けさも新鮮でよいものだな」
嬉しそうに微笑む水鈴に、泉は教室の鍵を渡す。
「開けてきてくれますか?」
「もちろんだ」
水鈴は鍵を受け取ると妙に張り切って、教室に向かった。教室の鍵開けというのは、いかにも朝一番に学校に来たという感じがして、妙に胸が躍るものだ。
 鍵を開けた教室は当然無人で、水鈴は機嫌良く広く感じる教室を歩き回ったり、色々な人の机の落書きを見て回ったりしていた。
 程なくして泉が職員室から上がって来る。彼も水鈴とは別の理由で上機嫌だ。
 「ねぇ、水鈴君」
「ん?」
「君は異種族間の恋愛について、どう思いますか?」
泉は少し暇そうになってきた水鈴に、意味深な視線を向けて問うた。水鈴は不思議そうに泉を見返してくる。
「そなた、異種族の者でも好きになったのか?」
「はい、竜族なんですけど」
「そうか、それでか。好きな人と同じ種族だから、私のことも助けてくれたのだな」
妙に納得した顔で手を打つ水鈴に、泉は思わず額に手を当てる。
「・・・いえ、まぁ、当たらずしも遠からずということにしておきましょうか」
 「? そうだな、竜族はあまり鬼族にいい感情を持っておらぬゆえ、困難な恋ではあるだろうが、頑張るがよい。私もそなたを応援するぞ。想いというものは、例え種族が違ってもきっと伝わるのだと私は思う。それにそなたが好きになるような人物なら、種族の違いなど気にしないかもしれぬしな」
頼もしげに泉を励ます水鈴に、泉は苦笑を漏らした。どうやったらこれだけ鈍くなれるのだろうか。
 「君はどうですか? もし鬼族に求婚されたりしたら」
泉の問いに水鈴は難しい顔で考え込む。そんなことは想像もしたことがなかったのだろう。
「恋愛は基本的に自由だ。だから、鬼族でも私が好きだと思えば種族など気にしない・・と言いたいのだが、私は王太子だ。私の結婚相手となる者は、将来私と一緒に国を治めることになる。それを考えると・・・・」
水鈴は悲しそうに眉を顰めた。恋愛に種族は関係なくても立場は関係あるというのが、彼の考えらしい。
「では結婚はできなくても、別に鬼族だからと言って、恋愛の対象外になるわけではないのですね?」
「当然だ。恋愛も友情も、種族など関係ない。好きなら鬼族でも一緒にいたいと思うし、嫌いなら竜族でも近くにいたくない。そういうものであろう」
水鈴がそんなことは当然だという風に言い切る。
 泉は嬉しそうに微笑んだ。目の前の幼子は初めて出会ったあの時からなんら変わってはいない。眩しくて愛しい存在。汚れた種族社会の中心に育っても、穢れることのない純粋な心。
 彼に出会って、泉は初めて他人を欲した。命を懸けても、この手に掴みたいと思った。彼を守る為だけに強くなった。
 もう自分と出会った時のことなど覚えてはいないだろうが、それでも構わない。こうしてまた笑いかけてくれるのだから。
 無意識に水鈴を腕の中に抱き込む泉。水鈴が彼を見上げると、その瞳には涙が滲んでいた。
「泉!? どうした? 私は何かそなたを傷つけるようなことを言ってしまったのか?」
泉は腕にさらに力を込めつつ、首を横に振る。
「嬉しいんです。僕の好きな人は、昔同じ言葉を僕にくれました。『種族など関係ない』と」
泉の言葉にほっとした水鈴は、彼の頭をそっと撫でた。
「そなたの想い、実ればよいな」
「ええ、実らせて見せますよ、絶対に」
泉は涙を拭いながらそう宣言すると、水鈴の体をさらに強く抱きしめる。水鈴は黙って彼に身を委ねていた。



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