第四話 焼き餅 〜2〜


 その日の帰りしな、小雪は生徒会で居残り、連斗は昼頃にサボりという名の早退をしたので、一人で帰ろうとした水鈴に、泉が声をかけてきた。
 「一人でしたら、家までお送りしますよ。時間も少し遅いですしね」
確かに少し残って勉強していたせいもあって、冬の空はとっくに日が落ちて暗くなっている。泉に気を許してきたこともあり、甘えようと思ったところに別の声がかかった。
「水鈴」
呼ばれて振り返った先には、水鈴にとって見慣れた青年が心持ち不機嫌そうな表情で立っていた。
 「冷也。どうしたのだ? 大学は終わったのか? 『あるばいと』は?」
不思議そうに見上げる水鈴の頭を、彼の手がそっと撫でる。だが、その目は水鈴の後ろにいる人物を敵意を込めて睨んでいた。恐らく泉に自らと同じ臭いを感じ取ったのだろう。それは泉の方も同様だった

 「直接お会いするのは初めてですね。初めまして、水鈴くんの担任の神崎です」
泉が冷也の視線を柔らかく微笑んで受け止め、挨拶をする。だが、その笑みは水鈴に向けられるそれとは違い、明らかに裏側に敵意が込められていた。
「初めまして。水鈴の保護者の氷月 冷也です。水鈴がいつもお世話になっています。先日はお宅に泊めてまでいただいて、ありがとうございました」
言っている内容はごく普通の礼儀正しい挨拶なのだが、どこか口調や雰囲気にトゲが感じられる。
「いえいえ。お礼を言われるようなことではありませんよ」
無表情な冷也とにこやかな微笑みを絶やさない泉だが、それでもお互い敵意を込めた視線を交えて睨み合う。鈍感な水鈴でさえ、二人の間に感じる空気が恐ろしくて声もかけられないでいた。
 「帰るぞ」
冷也がそっけなくそう言って、さっさと歩き出す。水鈴は短く返事を返すと、泉の方を振り返って頭を下げた。
「昨日は本当に世話になった。感謝を」
「いえいえ。またいつでも泊まりに来てください。勉強もお教えしましょう」
泉の言葉に、冷也は内心二度と泊まりになど行かせるかと思っていたが口に出しては何も言わず、黙って歩いて行った。
 「冷也、急にどうしたのだ? 『あるばいと』はよいのか?」
「バイトはマスターが風邪で休みになった。それで何となくお前が心配だったから、迎えに来たんだ」
歩きながら冷也は不機嫌そうに答える。
 不機嫌の原因は自分でもよくわからなかった。ただ、あの神崎とかいう教師がどうしても気にくわなかった。特に彼が水鈴と話しているのを見ると、胃のあたりがむかついて、頭に血が上ってしまう。また、向こうも同じように自分に敵意を向けていることが、この上なく気にくわなかった。
 「心配をかけてしまって、すまぬ」
水鈴の沈んだ声に、冷也の頭に上った血がすっと落ちていく。
 冷也は冷静に自分の不機嫌の原因を考えて、馬鹿馬鹿しくなって頭を振った。
 自分はあの神崎とかいう教師に嫉妬していたらしい。一体何を考えていたのだろう。確かに水鈴は性別がないから、恋愛対象になり得ないこともないが、自分より六歳も年下だ。第一、彼は男と偽って学校に通っているのだから、同じ男であるあの教師と、自分が嫉妬しなければならないような関係にある筈がない。
 まさか、泉が水鈴の正体を知っているとは思わない冷也は、そう考えて自嘲の笑みをもらした。自分は余程盲目になっていたらしい。
 自分は嫉妬するぐらいに、水鈴に特別な感情を寄せていたのだろうか? 性別さえない、異世界の子供に?
 考えれば考えるほど思い悩んでしまい、冷也はその日、ほとんど眠ることができなかった。
                       


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