第四話 焼き餅 〜3〜


 その日を境に、水鈴はよく泉に勉強を教えてもらうようになった。
 小雪に教わるときと違って、泉は水鈴が天界出身だということを理解してくれているので、説明が適切で彼にとってわかりやすい。お陰で成績も鰻登りだ。
 しかし、冷也はそれを快く思ってはいないらしく、放課後に遅くなったり、休日に勉強を教わると出掛けて行くたびに、不機嫌な様子を見せる。
 水鈴も気遣って訳を聞こうとするのだが、そのたびに押し黙ってしまい手のつけようがなかった。


 朝、校門を抜けて教室に向かう途次(みちすがら)、水鈴はいきなり視界が真っ暗になり、息を呑んだ。
「誰でしょう?」
目元を覆う大きな手と、涼しい声には聞き覚えがあった。
「せ・・神崎先生か?」
「当たりです」
手が離され、振り向くとにっこりと微笑んだ泉が立っていた。そのまま、人気のない教室にひっぱり込まれる。
 水鈴は周囲に人がいるときは泉のことを以前と同じに神崎先生と呼ぶ。泉は別に構わないと言うが、彼なりのけじめだった。
 「驚きましたか?」
からかうような口調で問われて水鈴は唇を尖らせる。
「当然だ。一瞬、鬼族に襲われたかと思ったぞ」
「まぁ、鬼族には変わりありませんけどね。でも、そんな隙だらけでは先が思いやられますよ。不貞の輩にでも悪戯されたら、どうするんですか?」
「そうだな。私はいつ鬼族に襲われるとも知れぬのだから、もう少し気を引き締めねばならぬ。忠告、ありがとう」
水鈴は泉の言葉をどこかずれて捉えたらしく、生真面目な口調でそう言った。泉はそれに苦笑する。
 「そんな自覚のない貴方にプレゼントです」
通販口調でそう言った泉が、水鈴の首に何かを付けた。洒落たデザインのネックレスで、中心に薄桃色に輝く魔石があしらわれている。
「何か困ったことがあったら、それに念じて僕を呼んでください。いつでも飛んでいきますから」
 一応校則違反だからと、ネックレスを水鈴の詰め襟の中に丁寧に仕舞ってくれる。
 「泉・・。ありがとう。本当に感謝してもしたりぬな。何か私にも恩返しができればいいのだが」
水鈴が詰め襟の上からネックレスの魔石に手を当てて、満面の笑みを浮かべた。まるで雨露に濡れた紫陽花が夜明けの陽光を帯びたような、可愛らしくて清楚な笑みに、泉は思わず息を呑み、少し間をおいてから笑い返した。
 「側にいてくれれば、いいんです。側で笑って、僕を好きでいてくれるだけで、十分すぎるぐらいの恩返しですよ」
「そなたは無欲だな」
「いいえ、この世で最も強欲ですよ」
泉は意味深な笑みを浮かべて、もうすぐ予鈴が鳴るからと職員室に向かった。水鈴も教室に向かうが、最後の泉の言葉と笑みの意味が気になってしかたがなかった。



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