第四話 焼き餅 〜6〜


 鬼族の体が大きく後ろに吹き飛んだ。無論、泉の術によることは言うまでもない。
 背中を血に染めた水鈴を抱き留めた泉は、紫水晶の瞳に絶対零度の炎を燃えたぎらせ、吹き飛ばした鬼族を足で踏みつけて見下ろした。
「言いましたよね? 次に彼の髪の先にでも触れたら、生まれてきたことを後悔させて差し上げると」
鬼族は泉の瞳と声の冷たさに縮み上がった。
 一般的に鬼族は冷徹といわれているが、泉のそれは同じ鬼族から見ても、空恐ろしかった。また彼がその恐ろしさを裏付ける実力を持っていることを、彼は以前に水鈴を襲ったときに思い知らされている。
 「ひいぃぃっ。ゆ、許してくれ・・」
「却下です。幸い、今は彼も見ていない」
泉は冷然と宣告すると、怯える鬼族の額に手を翳して術を唱えた。
「ひいっ、う、うあぁああぁっ」
鬼族の姿が叫び声と共に変貌し、肉の塊と化す。動くこともできず、声も出せないそれは、だが鬼族の意識と感覚だけは確実に残していた。
 「苦しいですか? ふふっ。三百年ほどしたら死という名の解放が得られますよ。それまで犯した罪に相応しい苦しみを味わってください」
動くことも話すことも出来ないが五感はしっかりと存在しており、殴られれば痛いし燃やされれば熱い。それでも死は三百年後まで訪れず、苦しみだけが続くのだ。
 泉は汚い物を掴むように汚らわしそうにそれを持ち上げると、保健室の窓から見えるゴミのコンテナに向かって投げ入れた。肉塊は綺麗な放物線を描いて見事にコンテナの中に落ちていく。
 泉はそれには見向きもせず、水鈴の方に駆け寄った。急いで彼の背中を術で治療する。その彼の表情は先程とはうってかわって不安気で、瞳は泣き出しそうに眇められている。とても、先程鬼族を冷然として肉塊に変えた者と同一人物とは思えなかった。
 水鈴の白い肌から傷が消え去り、彼が穏やかな呼吸を取り戻したのをみた泉は、大きく息をついた。そして、心底愛おしそうに水鈴の華奢な体を抱きしめる。
「よかった、・・・本当によかったです」
震えた小さな呟きが泉の口から漏れた。



BACK   TOP   NEXT


本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース