第五話 涼華 〜2〜


 暫く後、丁度日が完全に落ちきったぐらいの頃だろうか。玄関で鍵を開ける音を聞き取った水鈴がリビングから玄関へと駆けだしていく。
 廊下に出たところで、玄関口で靴を脱ごうとしていた女性と目が合った。
 美しい・・女性に関して使う意味でのこの形容詞が、まるで彼女のために生まれたかのように思えた。
 すっと通った鼻梁にくっきりと二重の紅茶色の瞳は長い睫毛に縁取られ、中に宿る燃えるような激しい光を隠すこともなく、爛々と輝いている。唇は赤く艶やかで、露に濡れた薔薇を思わせた。冷也と同じ、だかそれよりも幾分かの色香を含む抜けるような白い肌にかかる柔らかに波打つ琥珀すら思わせる茶色い髪を追って視線を顔から、体へと向ければ豊満な胸のラインと引き締まった腰がジャケットの下のシャツの上からでもくっきりと見て取れる。極めつけは短めのタイトスカートから伸びる脚線美。すらりと伸びた長くてほどよく細い足は、とても日本人女性とは思えなかった。
 だが、水鈴はそこまで認識するには女性に対する感心が薄すぎた。彼の場合、綺麗とか美人の一言である。豚に真珠猫に小判といったところだろうか。
 「あーんっ、ホントに可愛いじゃなーい!!」
涼華は水鈴が動く前に、靴を脱いで廊下を水鈴の所まで走り込んできたかと思えば、水鈴をきつく抱き締めた。水鈴の顔が涼華の豊満な胸に押し付けられ、流石の水鈴も驚いたように涼華を見上げる。
「うわっ・・あっと、そなたが冷也の姉君か?」
聞かれた見上げてくる瞳と訊ねてきた言葉に、涼華は更に腕に力を込めた。
「そうよ、初めまして。冷也の姉の涼華よ。よろしくね」
「あ、ああ・・。私は水鈴という。そなたの弟君には本当に世話になっている」
「あーん、いいのよ、あんなので良かったらいくらでも世話させてやって」
ぎゅうぎゅうと胸に顔を押しつけられて、水鈴は息苦しさを覚えた。だが、顔がふさがっているためにそれすらも口に出来ない。
 「姉貴・・・いい加減にしろよ」
そこへ、半ば呆れたような声がかけられた。涼華は不満そうに後ろに立った冷也を振り返る。
「何よ、男の嫉妬はみっともないわよ」
「そう言う問題じゃない。水鈴が苦しがっている」
「あら・・」
冷也の言葉に涼華はやっと自らの腕の中で苦しそうにしている水鈴に気付き、手を離した。
 「ふぅ・・・」
水鈴はやっと解放されて、深く息を吸い込む
 「ゴメンナサイね。あんまり可愛かったものだから。我が弟ながらなかなかの趣味だわ」
「姉貴っ。そういうんじゃないって、何回も言っただろ!?」
「うっさいわねー。お姉様は何もかもお見通しなのよ」
冷也は姉の言葉に図星を付かれて、赤みを帯びた顔を背けた。
 昔から冷也はこの姉には敵わないのだ。
 涼華は容姿だけでも人並み外れているが、才能も負けず劣らずだった。冷也だって、並よりは多少上だという自覚はあったが、涼華ときたらそんなレベルではない。勉強もできるし頭も切れる、運動だって得意だし、喧嘩をしても男の冷也を軽くのしてしまうぐらいだ。
 もっとも、家事の腕前と性格の良さに関しては、誰がどう贔屓目に見ても、冷也の方に軍配が上がりそうだが。
 「ほら、何ぼーっとしてんのよ。さっさとあたしと水鈴君にお茶でも淹れて」
涼華に背中を押されて冷也は、素直にリビングへとお茶を淹れに行った。こんなことで逆らっていては、命がいくつあっても足りないことを、冷也は経験で知っていたのだ。



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