第五話 涼華 〜3〜


 テーブルでお茶を囲みながら三人は穏やかな時間を過ごした。涼華は確かに傲慢な面を持ち合わせていたが、決してがさつではなく、落ち着いた様子で紅茶を口に運ぶ様子は、様になるの一言だ。いかにも良家のお嬢様といった風体である。もっとも冷也は、彼女が深窓のお嬢様でなどあり得ないと表情で語っていた。
 涼華は父親の会社の系列の子会社の一つを任され、今までイギリスのロンドンに単身赴任していたのだという。だが、ある程度の業績を納めたところで、いつまでもオーナーの親戚が上に座っているのは居心地が悪かろうと、現場の信頼できる人間に任せて涼華は自ら身を引いたのだという。もっとも、それは建前で、彼女は父親の敷いたレールに収まりきるような器ではなかったというだけの話だ。築いた富と人脈を利用して、事業でも起ち上げようと思い、その前の暫しの休息ということで実家に戻って来たらしい。もっとも、彼女の両親からして、結構中堅グループのオーナーとして世界を飛び回っている身であるから、実家に戻って来たところで、残っているのは未だ学生の身分の弟、冷也だけであったが。
 「でも、まさかこんな可愛い子が一緒だなんてね」
涼華は紅茶のカップを受け皿に戻すと、意味深な表情で冷也の顔を見やった。冷也はどこか不機嫌そうに視線を逸らす。だが、その頬には僅かに淡い朱が混じっていた。
 「にしても、姉貴もよく、すんなりと信じてくれたよな」
冷也が涼華を関心したように見やった。天界がどうのという話は、自らの目で鬼族や竜族を見た冷也ですらにわかに信じられないことだった。まして、人づてに聞いてよくすんなりと受け入れられたものである。
 「まぁ、ちょっと私も……あ!!!」
冷也の言葉に何か答えかけて、涼華は豊かな髪を梳こうと上げた手を止めた。そのまま慌てた様子で立ち上がる。
「ごめん、ちょっと空港に忘れ物したから、取りに行って来るわ」 彼女にしては慌てた、それでもあくまで優雅さを失わない仕草で踵を返し玄関に向かう。玄関の扉が閉じる音と共に、静寂が室内を覆った。
 「…えらく慌てた様子であったが…余程大切なものを忘れたのだろうな」
「あぁ、姉貴にしては珍しい…」
水鈴と冷也は呆気にとられた様子で涼華が出て行くまで反応すらロクに出来なかった。それほど、彼女の行動が迅速だったとも言えるだろう。二人は廊下の向こう、閉じた玄関の扉を眺めながら、残った紅茶を飲み干した。



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