第五話 涼華 〜4〜


 涼華のことなど話ながら、暫し和やかな時間が続いた。だが、不意に水鈴のティーカップを持つ手がぴたりと止まった。穏やかだった表情が緊迫に彩られ、その様子に冷也が怪訝そうに眉を寄せる。水鈴に向かって光の矢が飛んできたのと、彼が咄嗟に水の防御壁を作ったのが同時だった。光の矢が水の壁に弾かれて砕け散る。
 「冷也、下がっていてくれ」
水鈴はティーカップを置いて立ち上がった。パシャンという軽やかな音と共に水鈴の掌から踊り出した水の雫が、彼の周囲を舞う。冷也は固まって逃げることもできずにいた。
「何者だと問うべくもないな」
水鈴の声に応えるように、体格のいい男が姿を現した。尖った耳、冷たい瞳。鬼族だ。
 水鈴の周囲を待っていた水が、無数の氷の刃に姿を変えて鬼族へと向かっていく。だが、鬼族の掌から放たれた炎がそれを全て溶かして、さらに水鈴と冷也に迫った。水鈴は冷也を庇うように立ち、水の防御壁で炎を防ぐ。
 間近に迫る炎。鬼族の放つ殺気。隣では幼いと思って見ていた水鈴が彼の知らない顔で戦っている。冷也はただ呆然とそれを見つめていた。あまりにも彼の日常からかけ離れたことで、妙に現実感がないまま、ただ足だけが震えていた。話は聞いた。理解していたつもりだった。彼らの人間の常識からかけ離れた力も、水鈴が命を狙われているということも。だが、現実に目の当たりにするのは、話を聞くのとは全然違った。彼らは本当に命のやりとりをしているのだ。守ってやりたいと思っていた幼い水鈴ですら、自分が足が震えて動けないでいる横で懸命に鬼族に応戦している。
 「危ない!!」
水鈴の声と身体に与えられた小さな衝撃が、冷也を現実に引き戻した。水鈴の身体が、冷也にぶつかり彼を弾き飛ばしていた。一瞬前まで彼のいた場所は、炎に包まれていた。水鈴の水が炎が広がらないように消火する。
「安全な場所に下がっていてくれ。そなたは必ず私が守るから」
水鈴の言葉を受けて、冷也は震える足を引きずって庭に出た。窓越しに水鈴の戦っている姿が見える。小さな細い身体。それでも、冷也よりも余程勇猛だった。だが、みるみる旗色が悪くなっていくのが冷也にもわかる。それでも、彼には何もできなかった。冷也は自らの無力に打ち拉がれる。
 冷也の視線の先で、水鈴がどんどん防戦一方に追い込まれていく。今では、相手の放つ炎を防ぐだけで精一杯だった。水の防壁が、炎がぶつかるたびに音を立てて蒸発し、薄くなっていく。
 冷也は自分を叱咤した。自分は彼を守ると決めたはずだった。自分が無力だろうと何の関係があるものかと。たとえ、彼らのような力がなくても、自分には自分のできることがあるはずだ。そう考えた時、冷也の頭を閃きが貫いた。冷也は急いで視線を巡らせると、庭の散水用のホースに飛びついた。
 水鈴を襲う炎に水の筋が蛇のように降りかかり、その勢いを弱める。水鈴が水の筋を追って後ろを振り返ると、そこにはホースを手にした冷也が立っていた。足の震えはいつの間にか止まっており、その姿は逞しいとすら言える。
 「かたじけない」
水鈴の術でホースから迸る水が竜の姿に形を変えた。水の竜は炎を飲み込み鬼族に迫る。鬼族は再び炎を放ったが次々とホースから水が補充されるので、水竜の身体は蒸発してもすぐに復元する。水竜の爪が氷の刃となり鬼族を襲う。鬼族の身体から鮮血が飛び散った。その胸には深く爪痕が穿たれている。さらに、水竜の胴体が鬼族に巻き付き締め付けた。身動きもできぬままに鬼族は苦悶の表情を浮かべ呻き声を上げ、やがて、身体がぐったりと力を無くし動かなくなった。



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